バイオダイナミック農法の裏面

バイオダイナミック農法の裏面

近ワインファンの中でも一種の流行となっている『バイオダイナミック農法』。
今回は、バイオダイナミック農法の実態と裏面、それを提唱したシュタイナーが
一体どんな人物であったかについて触れていきましょう。

●現実的ではなく、霊性的農法

まず明確にすべきは、ワインのラベルによく目にする『ビオ』のマークは、
『バイオダイナミック農法で栽培した葡萄で造ったワイン』であって、ワイン造りに
バイオダイナミックのテクニックが用いられているわけではなく、その農法で葡萄を
作ったというだけということ。
この言葉の意味には二つのルーツがある。
ビオは古代ギリシャ語のbiosに由来する「生命」を意味し、もう一つのダイナミックは
これまた古代ギリシャ語のdunamis、つまり「力（ちから）」を意味する。
この二つが合わさって「生命力」や「生命の躍動」というような意味になったのだ。
シュタイナーの農業講座のタイトルには『霊性』という単語が含まれており、今日の
バイオダイナミック関連のウェブサイトは、『社会、宗教、霊性』と入力して検索すると
見つけることができるようになっている。
シュタイナー自身は生涯で何度か宗教的啓示を得たようで、19世紀末の
神智学者としての汎神論から熱心なキリスト教へと宗旨変えをしている。
通常、宗教団体は創始者に対していつまでも変わらぬ付託をする。
そして創始者はその信奉者から神聖視される。
当代のシュタイナー信奉者も例外ではなかった。
シュタイナーはゲーテとニーチェの信奉者としてスタートし、36歳の時に霊界を見ることが
できるようになって、神聖なる存在に通じることができるというお告げを得たと主張している。
またシュタイナー自身は、科学的知識に疑いのある人がおしなべてそうであるように、
明らかな人種差別主義者だった。
シュタイナーは白人女性が妊娠中に『黒人の小説』を読んではならない、
さもないと『混血児』が生まれてしまうといっている。
さらに彼は亡くなる1925年までの生涯をかけて、農業への回帰に関する
たくさんのトピックについて著述したり講演をし、彼の著作は多岐にわたるが、
彼は『口にはするけど実践はしない』ことをモットーにしていた人のようで、
決して彼自身が実際に農業に携わることはなかったのだ。
さらにシュタイナーはワインもその他のアルコール飲料も一切、口にしなかった。
そして農業実践のヴィジョンを『バイオダイナミック』と名付けたのだ。

フランスのバイオダイナミック農法の実態

フランスにおけるバイオダイナミック農法の実態について、醸造家の多くは
バイオダイナミック農法で造ったことをラベルに表示していない。
その理由の一つは、バイオダイナミック認証ラベルを発行する機関が、
この農法には何が許されていて何が許されていないかを判断する際に、
融通の利かない傾向があることからだ。
もう一つの理由は、生産年によって葡萄をどのように栽培するかを醸造家自信が
自由に選択したいという思いがあるからである。
アルザスの著名な生産者でドメーヌ・ワインバックでは、過去20年間は葡萄畑に
もっぱら堆肥を漉き込み、有機栽培を実践してきた。
彼女の動機は土壌の活性化にあり、まず彼女は畑の数区画で試し始めた。
そしてより良い品質の葡萄を生産するために土壌と根を相互に刺激しあって
活性化させたのだ。
彼女は葡萄樹にさまざまな調合剤を与えているが、収穫時期は『星の暦』に
したがって決めるのではなく、彼女自身の判断で決めている。
さまざまなバイオダイナミックの実践は、シュタイナーとは何の関係もない
彼女の祖母がやっていた方法を踏襲しているのだ。
アルザスでは、ブルゴーニュと同様に、いくつかの著名なワイン生産者が
バイオダイナミック農法に転換したが、それはその効能を試す途上にある。
2002年7月にウィーンで開催されたマスター・オブ・ワイン・シンポジウムでの
『バイオダイナミックスは画期的なものかはたまたインチキか』と題した
アンドレ・オステルタグの講演は、さまざまな方法に解釈されるような
ほとんど要領をえない写真を発表しており、「どんな効果があるか分からないけれども
実践している」といって自己満足していたそうだ。
他の地域と比較して、ボルドーではバイオダイナミック農法を取り入れる
生産者は少ない。その理由は主として気候にあると思われるが、それとも
その他の要因なのかは議論の余地がある。
特にメドックはそういう実践に対して閉ざされたところがあるのだが、実際のところ
トップ・シャトーのほとんどは、バイオダイナミック農法の一部分である
『常に土壌を耕し続けること』を決して止めずに続けていることが実態だ。
右岸のサンテミリオンで家族経営のシャトー・フォンロックをバイオダイナミックに
変更したアラン・ムエックスは、バイオダイナミック農法にすると仕事量が凄く
増えるので、個人の信念が大事だと強調している。
彼は熟練した農学者だが、バイオダイナミックの難解な側面は脇において、
葡萄畑の仕事にできるだけ多くの時間を割くこと、シンプルに何がどうなっているのかを
よく観察することが大事だと考えている。

●バイオダイナミック農法の科学的根拠

バイオダイナミック農法の有効性の科学的根拠はまだ得られていない。
バイオダイナミック運動には、科学者たちの間における評価を貶めてしまうような
過激分子もいる。
バイオダイナミック農法はなぜそれが機能するのか説明することは難しいが、
その結果はワインに見られるようにきちんと現れている。
だからそれを懐疑的にみるという段階はすでに超えているのだ。
葡萄栽培は複雑なプロセスで、その結果を厳密な価値量として見極めることは
とても難しいものだといえる。

まとめ

今日の葡萄畑におけるバイオダイナミックの実践は、もっぱらシュタイナーに
ゆだねられているわけではない。
しかし実際、彼の風変わりな考えと農業への難解なアプローチの仕方は、
多くの人の興味を集めている。
バイオダイナミック農法を採用している生産者が造るワインの真の品質には
一見の価値があるのである。
もしバイオダイナミック農法が、より以上の恩恵を与えるものではないとしても、
葡萄樹をどのように手入れし、どのように病虫害から護っていくのかを考える際の
刺激にはなっているはずだ。　

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